マネージャーに文句を言われるのが嫌やったし、
化粧品を売ることが仕事やったから、
やっぱり何か買うてもらわんと辛いのやけど、
私自身、当時は
「みんなをキレイにしたい!」
って思ってたから(当時はね)
客に化粧をすることは
たとえ買い物してくれなくても
全然かまへんかってん。
でも、それはお客さんがええ人やった時だけね。
「キレイになったー!」
って喜んでもらえたら、それだけで嬉しかったし。
だがしかし、
そもそも高級デパートにしょっちゅう来て
1時間以上居座って、化粧してもろて、
身の上話、しまくって
下にも置かん扱い受けて、
毎回、なんも買わんと帰って行ける根性ある人らやねんで。
普通やない。
七十三歳のマーサも
そういう客の一人やってん。
彼女は途中から買い物するようになってんけど、
それを全部返品するから、
まあ、買うたとは言われへんか。
ある日マーサから電話かかってきて
返品したのに、銀行口座に返金されてへんやないの!
って怒鳴られた。
知らんがな。
銀行に聞いてくれとしか、言いようがない。
でも、電話口で延々と
「あんたのことなんか信用できへん!」
「もう二度とあんたから何も買わん!!!」
「私に二度と関わってくるな!」
怒鳴りまくったマーサ。
いくら年配者でも、
いくらお客さんでも、
ここまで言われなあかん筋合いない。
それでも、その時は
「本当に申し訳ないんですけど、口座に返金されるまでに
数日かかりますし、私にはどうにも出来ないんです」
て、何度も繰り返したよ。
私に何の落ち度もないけど、
喧嘩するわけにもいかんしね。
そんなマーサやったけど、
しばらくしたら何事もなかったかのように、
私のとこに来たんよ。
化粧して欲しいから。
「ねえ、アイライナーはペンシルとリキッドどっちが良いと思う?」
と、マーサ。
使いやすい方でいいんやないですかー(棒
「下瞼にもアイライン入れた方がいいかしら」
入れてもいいんやないですかー(棒
「ちょっと入れ方わからないから、教えて」
入れ方わからないなら、
別に入れなくてもいいんやないですかー(棒
「え?でも試してみたいわ」
暗に私にやれと言うているのだ。
ほんで、なんだかんだ言うてきて、
フルメイクをさせようとする、
いつものマーサのやり方。
あんだけ私に怒鳴った後で
ええ根性しとるやんけ。
そうですか、はいどうぞ(ニッコリ)
お試しください!
テスターのアイライナーを
鏡の前に座るマーサの前に
ばんっ!と置いた。
目を丸くして私を見るマーサ。
私は微笑みを浮かべたまま、
マーサを見返した。
アイラインなとなんなと、
やりたかったら、己でやれ。
わしはお前の薄汚いド面なんぞ、
二度と触らんからな。
客やからって、
何言うてもこっちがへーこらする思とったら、
大間違いじゃ。
という気持ちを微笑みに込めて。
その後、マーサは二度と私の前に現れることはなかった。
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