そんな情報聞きたくないし

結局、どこに行っても

私の想像の斜め上行く客がおることは

ようわかった。

パン屋の方が忙しい分、

バラエティに富んだ人々を

見ることが出来るが、

化粧品売り場の場合は、

お客さんとの距離が

もっと近い感じ。

美容師さんなんかも

同じやと思うのやけど、

化粧してあげてる間に

色々、自分語りしてくれる人が

多いんよね。

ヘアカットの場合は、

誰もが行かんとしょうがないやん、

セルフカットしてる人以外は。

そしたら中には

美容師さんと喋るんが苦痛で

あんまり喋らん人もおるかもやけど、

化粧品売り場の場合は、

特に初老以上の女性客の場合は、

喋りたいから来る人が多い。

 

皆が皆ではないけれど、

家族と疎遠とか

友達がいないとかで、

美容部員が話を聞いてくれることが

嬉しくて来る老女が多かった。

やり手の美容部員は

老女たちの寂しさをうまいこと利用して、

物凄い金額の売り上げを

叩き出していたけれど、

私にはその才能がなかったみたい。

顔を触るという、

とてもパーソナルなことをしているので、

お客さんも結構、深い話（いろんな意味で深い）を

してくれることが多かったが、

時々は、聞きたくない話もあった。

メイクオーバーに来たシャロンは

その当時で、

五十歳ちょっと過ぎたとこ。

老人という年齢ではないのやけれど、

酒とタバコの影響で

肌はもみくちゃにした渋紙みたいになっていた。

そして私に

「アイラインと付け睫で

セクシーなキャッツアイにして」

と頼むのやが、

肌の老化が酷すぎて、

なかなか彼女の思い描く

セクシーな目元にはならず、

何度もやり直しをさせられた。

「このアイライン、ウォータープルーフ？」

「ええ、そうですよ」

「付け睫は？」

「ウォータープルーフってわけやないけど、

普通に1日はもちますよ」

「1日じゃ困るのよ」

「どーゆーことです？」

「三日もってもらわないと困るの」

「いやいや、三日はあかんでしょ。

毎晩化粧落として顔洗わんと」

「だって、顔洗ったら

自分でアイライン入れたり、

付け睫つけたり出来ないもの」

「練習するしかないですね。

アイラインもいくらウォータープルーフでも

毎晩落とさんとあきませんよ」

「そんなの困るわ。

私、彼に会いにニューヨークまで行くのよ。

三日間ベッドの中で過ごしても

落ちないメイクでないと困るわ」

・・・・・

 

TMI (too much information)

めっちゃいらん情報や。

そんなこと聞かされて、

なんと返事をしろと。

てか、猛烈にタバコ臭くて、

酒焼けの声、肌はもみくちゃの渋紙でも

彼氏おるんか・・

アメリカってほんまに、

どんな人でも相手が見つかる国やねんな、

と、見つからん私が言うてみる。

「だって初めて会うのよ」

ああ、まだ会うてへんのか。

てか、まだ会うてへんのに、

いきなり三日間、

ベッドの中で過ごす気満々とか、

ますます

わいには理解不能や。

「三日間落ちないメイクしてよ」

「無理です」

「そんなこと言わずに何とかしてよ」

「できません」

出来へんもんは、出来へんので、

断ったから

その後彼女がどうしたかは知らんが、

こんな変な人相手で、

誰も聞きたくないような情報を聞かされ、

しかも時間をかけて化粧をしてあげたのに、

一銭の儲けにもならず、

そんなことも

アメリカの美容部員あるあるでしたわ。

　

応援ありがとうございます。